なぜそうなるか

賃貸の部屋で水が漏れたら、直すのは誰か——民法第606条は貸主に修繕の義務を置き、第615条は借主に「遅滞なく」知らせる義務を置いていました

借りている部屋で、洗面台の下から水がにじんでいる。持ち家なら、自分で工事店を探して頼むだけの話です。けれど賃貸だと、その前にひとつ迷いが生まれます。

直すのは自分なのか、それとも大家さんなのか。先に業者を呼んでしまって、あとで費用を請求できるのか。管理会社に電話するべきなのか、そもそも電話しなくても済むのか。

修理を頼む先が水道局の指定を受けた工事店かどうかは、前の記事で水道法の条文から読みました。こちらは、その一歩手前の話です。誰が直す立場にあるのかを定めているのは、水道法ではなく民法です。

民法には「賃貸借」の節があり、貸主の修繕の義務、借主が自分で直せる場合、かかった費用の返し方、借主が知らせる義務が、別々の条に分けて書かれています。

もうひとつ、国土交通省が公開している「賃貸住宅標準契約書」があります。契約書のひな形で、修繕の条と、借主が自分で直してよい小さな修繕の一覧が載っています。

この記事では、民法の条文を e-Gov 法令検索の本文から、標準契約書を国土交通省の PDF から取り、2026年9月27日の時点の文言のまま並べます。自分の契約でどうなるかは、手元の契約書の修繕の条で確かめてください。

この記事でわかること
・貸主は、使うのに必要な修繕をする義務を負う(民法第606条)
・借主の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は、その限りでない(同条ただし書き)
・修繕が要るとき、借主は遅滞なく貸主に知らせる(民法第615条)
・知らせても直さないとき、急迫の事情があるときは、借主が直せる(民法第607条の2)
・標準契約書は、蛇口のパッキンやコマの取替えを、借主が自分で直してよい修繕に挙げている(別表第4)

部屋の修繕は、誰がすることになっているの?

借りている部屋の水漏れは、大家さんが直すもの?

民法第606条は、使うのに必要な修繕をする義務を、貸主に置いています。

第606条の見出しは「賃貸人による修繕等」です。1項は、義務を負う側を名指しする文から始まります。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

前半で、修繕の義務は貸主にあると定めています。後半のただし書きは、借主の側の事情で修繕が必要になった場合を外すものです。どんな事情がそれにあたるかは、条文には例が並んでいません。

水漏れに気づいたら、まず何をするの?

自分で直せそうなら、大家さんに言わなくてもいい?

民法第615条は、修繕が要るとき、借主は遅滞なく貸主に知らせなければならないと書いています。

第615条の見出しは「賃借人の通知義務」です。

賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

知らせる義務は、借主の側に置かれた義務です。貸主がすでに知っている場合は、この限りでないとされています。

標準契約書の第9条にも、同じ向きの項があります。契約書の中では、貸主が「甲」、借主が「乙」と書かれています。

乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。

民法が「通知しなければならない」と書くところを、標準契約書は通知したうえで「協議するものとする」と続けています。知らせて終わりではなく、話し合う段取りまで書いた形です。

大家さんが直してくれないときは、自分で直せるの?

連絡しても何日も来てもらえない。自分で業者を呼んでいい?

民法第607条の2は、知らせても相当の期間内に直さないときと、急迫の事情があるときに、借主が修繕できると書いています。

第607条の2の見出しは「賃借人による修繕」です。本文は、借主が修繕できる場合を2つの号で挙げる形になっています。

賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

1号は、知らせたのに直してもらえない場合です。

賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

2号は、とても短い一文です。

急迫の事情があるとき。

「相当の期間」が何日なのか、どんな状態が「急迫の事情」にあたるのかは、条文に数字や例が書かれていません。この記事でも、自分の場合がどちらにあたるかは判断していません。

自分で払った修理代は、返してもらえるの?

自分で業者に払った代金は、あとで大家さんに請求できる?

民法第608条は、貸主の負担に属する必要費を借主が出したとき、直ちにその償還を請求できると書いています。

第608条の見出しは「賃借人による費用の償還請求」です。

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

請求できるのは、「賃貸人の負担に属する」必要費に限られています。どの費用がそれにあたるかを、条文は1つずつ挙げてはいません。

標準契約書の第9条1項は、費用をどちらが持つかを、契約の言葉で書き分けていました。

甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。

蛇口のパッキンくらいなら、黙って替えてもいいの?

パッキンを替えるだけでも、大家さんの許可がいる?

標準契約書は、別表第4に蛇口のパッキン、コマの取替えを挙げ、借主が自ら行うときは通知も承諾も要しないとしています。

第9条の5項が、小さな修繕の扱いを決めている項です。

乙は、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、自ら行うことができる。乙が自ら修繕を行う場合においては、修繕に要する費用は乙が負担するものとし、甲への通知及び甲の承諾を要しない。

貸主に頼むこともできるし、自分でやることもできる。自分でやるなら、その費用は自分持ちで、知らせる必要も許しを得る必要もない、という書き方です。別表第4には、ヒューズや電球の取替えと並んで、次の行があります。

蛇口のパッキン、コマの取替え

ただし、この一覧は動かせるものとして作られています。標準契約書の作成にあたっての注意点は、別表第4についてこう書いていました。

別表第4は、個別事情に応じて、適宜、変更、追加及び削除をすることができます。

標準契約書は、あくまでひな形です。自分が結んだ契約に同じ別表が付いているか、中身が書き換えられていないかは、手元の契約書を開くまで分かりません。

この記事で確認したこと

賃貸の部屋の水漏れと、修繕の分担
・貸主は、使うのに必要な修繕をする義務を負う。借主の責めに帰すべき事由による修繕は除く(民法第606条1項)
・修繕が要るとき、借主は遅滞なく貸主に通知する。貸主が既に知っていれば、この限りでない(民法第615条)
・通知しても相当の期間内に直さないとき、急迫の事情があるときは、借主が修繕できる(民法第607条の2)
・借主が貸主の負担に属する必要費を出したときは、直ちに償還を請求できる(民法第608条1項)
・標準契約書は、蛇口のパッキン・コマの取替えを、借主が自ら行える修繕に挙げている。自ら行うなら費用は借主持ちで、通知も承諾も要しない(第9条5項・別表第4)

よくある質問

修理を頼む工事店は、自分で選んでいいのですか

どの工事店に頼むかという問いと、貸主と借主のどちらが直すかという問いは、別の決まりです。水道局の指定を受けた工事店の話は、前の記事で水道法から並べました。工事店を選ぶ前に、契約書の修繕の条と、管理会社への連絡の段取りを確かめてください。

標準契約書と違う契約を結んでいたら、どちらが優先されますか

この記事では判断していません。標準契約書は国土交通省が公開しているひな形で、別表第4も当事者の合意で変えられると注意点に書かれています。手元の契約書の条文を確かめてください。

下の階に水が漏れてしまったときは、どうなりますか

今回読んだ条文は、貸主と借主の間の修繕の分担を定めたもので、下の階の人との関係は扱っていませんでした。この記事では、その場合の扱いを判断していません。

この整理が変わる条件


出典

水漏れに気づいたら、自分で業者を探す前に、契約書の修繕の条と管理会社の連絡先を開いてください。

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